介護業務は専門性が求められる仕事ですが、担い手である介護人材の不足は深刻な問題です。原因の一つに給与面での処遇が、担い手不足につながっているといわれています。
これまで国は、深刻な高齢化社会に備え、介護人材確保のため、さまざまな処遇改善策を実施してきました。
この記事では、介護職員への処遇改善手当の概要や取得条件を理解し、今後の処遇改善がどうなるのか紹介したいと思います。
介護職員の処遇改善手当とは
介護という仕事には、高齢者の命と生活を守る、という重要な役割があります。ところが、月額賃金の平均額は全産業平均賃金より約4万円低いといわれており、介護の仕事を続けたくても、給料が低いため退職せざるをえない人もいます。
介護職員の給与面での処遇を改善する取り組みは、2009年から実施されてきました。しかしながら他の産業との賃金格差が是正されなかったり、介護人材が定着しなかったりするなど、課題の解決には至っていませんでした。
そこで国は、2010年から処遇改善手当を取得する条件に「キャリアパス制度の有無」を追加し、介護職員にとって働きやすい職場環境かどうか、能力・資格・経験等に応じた処遇が適切に定められているかを評価する仕組みに変えたのです。
処遇改善手当で給料は上がるの?
処遇改善手当は、利用者のサービス利用料に上乗せされ、介護職員に配分される仕組みになっています。
「令和3年介護従事者処遇状況等調査」では、加算を取得(届出)している事業所は93.5%であり、業界全体で処遇改善に向けて取り組んでいることが分かります。
介護職員の平均給与額の状況をみると、令和3年9月と令和2年9月を比較した場合、介護職員月給は平均13,410円上がっています(令和3年度に新たに介護職員等特定処遇改善加算を取得(届出)した事業所における介護職員(月給・常勤の者)の平均給与額)。
つまり、施設サービス、在宅サービスにかかわらず、介護職員の給料は上がっています。
※参考: 厚生労働省「令和3年介護従事者処遇状況等調査」
処遇改善手当は基本給に含まれるのか
処遇改善手当の支給方法は、事業所によって異なっているのが現状です。「令和3年介護従事者処遇状況等調査」では、次の4つの方法で、介護職員への処遇改善手当を支給していることが分かりました。
支給方法 | 回答割合 |
定期昇給を実施 | 74.5% |
手当の引き上げ、新設 | 21.4% |
賞与等の引き上げ、新設 | 14.2% |
給与表の改定、その他 | 16.6% |
なお、このデータは介護サービス全業種の平均数値となっています。
施設系サービスである介護老人福祉施設、介護老人保健施設では、およそ90%の施設が定期昇給で支給している結果となりました。事業所が変則勤務や重度の介護者をケアする施設系介護従事者に対して、基本給をアップし処遇改善をおこなっているのがわかります。
※参考: 厚生労働省「令和3年介護従事者処遇状況等調査」
処遇改善手当をもらえる条件とは
処遇改善手当によって給料をアップするためには、働いている事業所が支給条件を満たしている必要があります。
そのためには事業所が介護人材の処遇改善に取り組み、職場環境を整えているかどうかという視点が重要です。
具体的には、次の二つの取り組みを事業所がどの程度満たしているかが支給条件となります。
キャリアパスへの取り組み
1.職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
2.資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
3.経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
職場環境への取り組み(いずれか一つ)
・入職促進に向けた取り組み
・資質の向上やキャリアアップに向けた支援
・両立支援・多様な働き方の推進
・腰痛を含む心身の健康管理
・生産性向上のための業務改善の取り組み
・やりがい・働きがいの醸成
処遇改善手当をもらえない人
介護職員処遇改善加算は、介護職員を手当の対象としています。ですから訪問看護や福祉用具貸与、介護予防支援など介護職員が配置基準にならない事業所には支給されません。加算対象外となる事業所をまとめたものが下の表です。
【加算対象外事業所】
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・福祉用具貸与
・特定福祉用具販売
・居宅療養管理指導
・居宅介護支援
・介護予防支援
処遇改善手当は、生活相談員や事務員、ケアマネジャーなどは支給対象外ですが、事業所によっては全職員に報酬を振り分けるところもあります。その場合、配分割合やルールは介護職員の処遇改善を図ったうえで独自に決めることができます。
※参考: 厚生労働省「2019年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)(令和元年7月23日)」
処遇改善手当の今後は?
介護職員処遇改善加算は、キャリアパス要件と職場環境要件の取得に応じて<Ⅰ>から<Ⅴ>の五段階で報酬が設定されていました。
ところが2022年の改正により、比較的条件設定が低い<処遇改善加算Ⅳ>(キャリアパス要件と職場環境要件がいずれか一つを満たすこと)と<処遇改善加算Ⅴ>(キャリアパス要件と職場環境要件すべて満たしていない)が取得条件から廃止され、処遇改善加算は三段階となりました。
これにより事業所が積極的に処遇改善に取り組むことで、さらなる職場環境の改善、人材の定着が進むことになったのです。
介護職員等ベースアップ等支援加算って何?
「介護職員等ベースアップ等支援加算」は、令和4年10月からはじまった処遇改善手当の一つです。令和4年4月から9月まで介護職員の一時的な賃上げの措置であった「介護職員処遇改善支援補助金」が、同年10月より、介護報酬に加算として組み込まれました。
加算を取得する条件は、次の二つです。
①処遇改善加算<Ⅰ>~<Ⅲ>のいずれかを取得している事業所(現行の処遇改善加算の対象サービス事業所)
②賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の2/3 は介護職員等の ベースアップ等に用いること
加算率は、ベースアップ等加算の対象サービスごとに設定されていますので、事業所によって異なります。最も高いのは、「訪問介護」「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の2.4%で、低いのは「介護療養施設サービス」「短期入所療養介護(病院等(老健以外))」の0.5%です。
処遇改善手当との違い
令和4年12月現在、介護職員に対する処遇改善の手当ては、「介護職員処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の三つです。それぞれ支給対象や支給額は異なっているものの、幅広く介護従事者の処遇改善に役立っています。
特徴をまとめてみましたので、確認してみましょう。
処遇改善手当の種類 | 対象者 | 支給額 |
介護職員処遇改善加算 | 介護職員のみ | 月額15,000円~37,000円 |
特定処遇改善加算 | 経験・技能のある介護職員、その他の介護職員、その他の職種 | 介護職員の処遇改善を優先し、事業所配分 |
介護職員等ベースアップ等支援加算 | 介護職員、その他の職種 | 月額9,000円相当 |
まとめ
介護職員処遇改善手当は、介護職員をはじめ介護にかかわる職員に対して、日々の努力や成果を評価しようという目的ではじまりました。補助金として一時支給されたベースアップ制度も、2022年10月から介護報酬に加算として組み込まれ、介護職員への処遇改善が継続的に実施されることが明確になったのです。
介護職員にとっては、月給が上がり職業として相応しい給与水準になったことは喜ばしいことです。しかしその裏には、手当により引き上げられたサービス利用料を負担するご利用者がいることを忘れてはいけません。サービスの質向上や職場環境改善にこれからも努力を怠らないことが重要です。
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