傾眠(けいみん)とは、軽度の意識障害の状態をいいます。傾眠は大きな声で呼びかけたり、肩をたたいたりすると意識が戻る軽度なものですが、意識の程度によっては応急処置が必要な場合があります。
この記事では、介護をするうえで見過ごしがちな傾眠について、正しい知識や対応方法を紹介します。介護職にとって日頃から傾眠を予防できるポイントがありますので、是非参考にしてください。
傾眠とは
傾眠とは、意識障害のなかでも軽度な状態のことをいいます。
高齢者にみられる傾眠は、一見居眠りしているようにも見えますが、実は病気や体調不良のサインであることが考えられます。
介護職として、意識障害のレベルに応じた特徴や観察するポイントを理解して、異変に素早く気づくことが重要です。
意識障害の4つのレベル
意識障害は大きく4つのレベルに分けられます。それぞれ独立したものではなく、放置しておくことで重度化したり、予防をおこなうことで改善したりするので、それぞれのレベルの特徴や用語について理解しておきましょう。
意識清明
意識清明(いしきせいめい)とは、意識障害がない状態のことをいいます。
コミュニケーションが可能な通常の意識状態を表しており、この用語を日常のケア場面で用いることは少ないでしょう。
もしも使うとすれば、意識障害から回復した時です。「意識が清明となる」と記録することで、読み手は高齢者に意識障害が起こり、その後改善したと症状の経過を理解することができます。
傾眠
軽度の意識状態で声掛けをしたり体を触ったりすることで意識が回復する状態のことを傾眠、または傾眠傾向といいます。しかし呼びかけて一旦意識が戻ったとしても、しばらくは様子をうかがって傾眠状態にならないか、観察し続けることを忘れてはいけません。
もしも居眠りしている状態と区別がつかない場合は、呼びかけた際の反応や言動、傾眠状態になる頻度を記録しておくと医師の診察や治療に役立つ情報となります。
昏迷
昏迷とは、傾眠状態が悪化した状態をいいます。中度の意識障害に位置づけられるので、大声で呼びかけたり、傾眠よりも強い刺激を与えたりしないと、意識が戻りません。外部からの刺激に対して本人は抵抗や不快感を示すかもしれませんが、重度化を予防するためにやむを得ない対応です。何度も起こる場合は受診して原因を検査する必要があります。
昏睡
昏睡とは、重度の意識障害状態をいいます。外部からの声掛けや刺激に対して目をつむったまま何の反応もおこらなくなります。体の筋肉が緩むので、全身がだらりとした状態になり生命に危険が及ぶ恐れがあるので、救急処置が必要です。
傾眠となる要因
傾眠には様々な要因が挙げられます。軽度の意識障害といっても、要因によってその対処法は異なりますので、それぞれの発生メカニズムを理解することが重要です。
認知症
認知症によって傾眠状態に陥ることがあります。特に初期の認知症では無気力状態によって脳の活動量が減り、その結果傾眠状態で日中過ごす場合が少なくありません。
認知症の程度によっては、徘徊や失見当などの周辺症状があり夜間に睡眠がとれず、昼間に椅子に座って呆然としている場合があります。
高齢による体力低下
高齢による体力低下が進むと、見た目ではわからない精神機能や免疫機能、神経伝達機能も低下していきます。夜間十分な睡眠時間が取れなかったり、途中で何度も目が覚めたりして、眠気が日中も継続する場合には、傾眠が疑われます。傾眠の要因には体力だけでなく様々な機能の低下が関連しているのです。
脱水症状
脱水症状により、軽度の意識障害を起こすことがあります。
高齢者の場合は、体の水分量が減少しているだけでなく、喉の渇きを感じにくくなります。自覚がないまま脱水状態が悪化すると、意識がもうろうとして意識障害を起こすことがあるので注意が必要です。
薬の副作用
服用している薬の副作用によって、軽度の意識障害を起こすことがあります。
慢性的な疾患や複数の病気がある高齢者の場合、薬の量が増減したり飲み合わせが影響したりすることによって副作用が強まることがあります。
薬の内容が変わった際には、高齢者の様子に注意しながら、介護スタッフで全身の状態や意識状態を共有しておくことが重要です。
低血圧
食事をした後で急激に血圧が下がる食後低血圧によって、傾眠状態となることがあります。消化のために大量の血液が一時的に消化器官に集まるため、食後30分から1時間程度は低血圧となるリスクが高くなります。
食後低血圧は、めまいやふらつきを起こすことが主な特徴ですが、高齢者の場合意識障害へとつながることがあります。
疾患によるもの
頭を打ったときに硬膜と脳の間に血腫ができる慢性硬膜下血腫や代謝に関わる腎臓、肝臓の疾患があると、傾眠状態に陥ることがあります。
特に慢性硬膜下血腫は、脳が圧迫され外科手術が必要な疾患ですので、傾眠以外に歩行障害、手足のまひを伴う場合には、すぐに病院を受診しましょう。
介護で傾眠を予防する
高齢者が傾眠状態のときに介護をおこなうことは大変危険です。たとえば食事介助であれば、誤嚥する危険がありますし、移動介助であれば転倒することが考えられます。
介助をおこなう際には必ず高齢者の意識状態を観察し、安全に介護をおこなうことが重要です。
この章では介護職が日頃から傾眠を予防するために役立つ取り組みを3つ紹介します。
声掛けを頻繁におこなう
高齢者が傾眠状態の場合、介護職は声掛けをおこなって意識を覚醒させましょう。それでも起きなければ、肩をさわってより強い刺激を与え意識レベルを確認します。
もしも反応がない場合は、何らかの疾患を疑い迅速に対応をおこなう必要があります。
介護職が頻繁に声掛けをおこなうことは、脳の活性化を促し傾眠を防ぐだけでなく、意識の確認を定期的におこない、異変があれば迅速に緊急対応に繋ぐことができるというメリットがあります。
こまめな水分をとる
脱水状態が悪化すると意識レベルが低下することがあるので、こまめな水分補給は傾眠予防に有効な対応といえます。一回の水分補給で大量に摂取するのではなく、口に含む程度の水分量を意識がはっきりしているときにこまめに飲んでもらいましょう。
日中に体を動かす
日中に体を動かすことは、脳を活性化し覚醒状態を保つことにつながります。同時に昼間の活動量を増やすことで夜間の睡眠状態を良好にし、昼夜の生活リズムを整えることができます。
高齢者の場合、不活発でメリハリのない日常生活は睡眠障害の原因となるため、規則正しい日課で生活リズムを保つことはとても重要です。
薬の調整をしてもらう
服用している薬の影響で傾眠状態となっている場合には、薬の調整が必要となります。高齢者に新しい薬が増えたときや薬の量が増減したあとで傾眠傾向が見られたら、介護職員はすぐにかかりつけの医師に相談しましょう。
その際は、いつから症状が現れたのか、どのくらいの頻度で傾眠状態となるのか、できるだけ詳しく記録しておくことが大切です。
まとめ
傾眠は軽度な意識障害を起こしているので、なんらかの要因が考えられます。
一見ウトウトしているように見えても、居眠りと意識障害は異なりますので、傾眠傾向が疑われたら早めに対応することが重要です。
そのためには日頃から介助をおこなう前には必ず声掛けをおこない、高齢者の意識状態を確かめてから介助をおこなうことを心がけましょう。
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